信託財産引継とは? 必要な手続きや税金の軽減措置も解説

信託財産引継とは? 必要な手続きや税金の軽減措置も解説

家族信託は、信託財産の所有権を委託者から受託者に移転させるなど、権利関係の移転を伴う手続きです。そのため、家族信託が終了した場合にも、所有権を戻すなど信託財産を引継ぐ手続きが必要となります。

この記事では、家族信託が終了した場合の信託財産引継の手続きと、それにかかる税金などを解説します。家族信託終了後の手続きにお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

家族信託が終了したら信託財産引継が必要

家族信託が終了したら信託財産引継が必要

家族信託は、信託の目的達成などが法律上の終了事由(終了原因)となっています。通常、家族信託を開始する際には、信託契約の中で、信託の目的に合わせて「信託の終了事由」を規定します。

たとえば、委託者の認知症対策として、信託財産の管理・運用を目的とした家族信託であれば、委託者の死亡を信託の終了事由とすることも多いです。

家族信託が終了すると、受託者は信託についての清算手続きを行い、信託財産を帰属権利者(家族信託の終了後に、信託財産の所有権を得る人)に引継がなくてはなりません。

家族信託終了後の信託財産の帰属者は、信託契約の指定があればその者に、指定がなければ委託者の相続人となります。

信託財産引継で必要な手続き① 不動産の所有権移転登記

信託財産引継で必要な手続き

信託財産に不動産が含まれる場合には、信託財産の引継ぎで不動産の所有権移転登記手続きが必要です。

ここでは、不動産の所有権移転登記とは何か、信託財産の引継ぎで所有権移転登記を行う場合の手続き方法について解説します。

不動産の所有権移転登記とは?

不動産の所有権移転登記とは、誰が不動産の所有者であるのかを公に明らかにするものです。家族信託では、不動産の所有権が委託者から受託者に移転するため、信託を開始するに際して、不動産の所有権移転登記を行うことになります。

家族信託の終了後は、不動産の所有権が帰属権利者に移転するため、所有権移転登記をそのままにしておくことはできません。所有権を帰属権利者に移転する旨の所有権移転登記手続きが必要です。

所有権移転登記を行わずに放置しておくと、受託者が不動産を第三者に売却してしまっても、本来不動産を承継すべき帰属権利者は、登記を信用して不動産を購入した第三者に、自分自身の所有権を主張することができなくなってしまいます。

所有権移転登記の登記原因証明情報に記載する内容

所有権移転登記を申請する際には、登記原因証明情報に記載する内容を指定する必要があります。登記原因証明情報に記載する内容は、登記申請情報の要項と登記の原因となる事実又は法律関係に分けられます。

たとえば、委託者が父、受託者が長男、帰属権利者が母のケースでは、登記義務者が父、登記権利者が母とする所有権移転登記が必要です。

受託者が帰属権利者となる場合の登記手続きについては、実務での取扱いが明確になっていません。全国の法務局によって取扱いが異なるため、手続きを進めるには司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

登記申請情報の要項(登記の目的や原因など)

登記申請情報の要項には、登記の目的や原因、登記義務者や登記権利者を記載します。登記義務者と登記権利者について簡単に説明すると、所有権移転登記では、登記によって所有権を失う側が登記義務者、所有権を得る側が登記権利者です。

登記の目的は、「所有権移転及び信託登記抹消」となります。登記の原因は、「信託財産引継による所有移転」です。

受託者が権利帰属者となる場合の登記手続きについては、以下の2つがあります。

  • 信託財産引継を原因とする所有権移転登記を行う方法
  • 信託財産引継により信託財産が受託者の固有財産となった旨の登記を行う方法

このうち、後者の方法については、登記申請情報の要項について、記載方法が明確ではないため、ここでは、前者の方法での記載方法を解説します。

受託者が権利義務者のときに、信託財産引継を原因とする所有権移転登記を行うには、登記権利者及び登記義務者がいずれも受託者となります。そのため、受託者は単独で登記手続きを行うことが可能です。

登記の原因となる事実又は法律行為

登記の原因となる事実又は法律行為の欄には、所有権移転登記を行う原因となった事実関係や法律関係を簡潔に記載します。

たとえば、委託者が父、受託者が長男、帰属権利者が母のケースでの記載は、次のようになります。

  • 父と長男とは、父を委託者、長男を受託者とする信託契約を締結し、それに従い登記を経由した。
  • 信託契約では、信託終了後の信託財産を母に帰属させる旨の条項が存在している。
  • 令和〇年〇月〇日、信託契約の終了事由である父の死亡により信託契約は終了した。
  • よって、母は、本件信託不動産を引継ぎ、信託登記については抹消されることになった。

信託財産引継で必要な手続き② 不動産の信託登記抹消手続き

信託財産引継 不動産の信託登記抹消手続き

信託財産となった不動産を帰属権利者に引継ぐには、所有権移転登記に加えて信託登記の抹消手続きも必要です。所有権移転登記と信託登記の抹消は同時に申請することができるため、信託登記の抹消手続きを個別に行う必要はありません。

登記申請情報の要項における登記の目的の欄に、所有権移転に加えて信託登記抹消と記載することで、所有権移転登記と同時に信託登記抹消を行うことができます。

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信託財産の引継時にかかる税金について

信託財産の引継時にかかる税金

信託財産の引継ぎには、登録免許税及び不動産取得税が発生します。ここでは、それぞれの税金が発生する仕組みと計算方法について解説します。

登録免許税

信託財産の引継ぎによる所有権移転登記と、信託登記の抹消にはそれぞれ登録免許税が発生します。

登記の移転による権利帰属者が、委託者の相続人である場合には、登録免許税の軽減措置の適用を受けられることがあります。なぜなら、権利帰属者は、もともと相続人として当該不動産を取得できる立場にあったため、信託財産引継による権利の移転を相続人への遺産の承継と同視できるからです。

登録免許税の計算方法

受託者から権利帰属者に所有権の名義変更をするための登録免許税の額は、不動産の固定資産評価額の2%です。

また、信託登記の抹消には、不動産1件につき1,000円の登録免許税がかかります。

権利帰属者が委託者の相続人で、登録免許税の軽減措置が適用されるときは、名義変更のための登録免許税の額が不動産の固定資産評価額の0.4%に軽減されます。

不動産取得税

権利帰属者が信託財産引継で不動産の所有権を取得した場合には、権利帰属者に不動産取得税が発生します。不動産取得税は、土地や建物などの不動産を新たに取得した場合に発生する税金です。

不動産取得税についても、権利帰属者が委託者の相続人である場合には、軽減措置の適用を受けられることがあります。

不動産取得税の計算方法

不動産取得税は、固定資産評価額の3~4%です。権利帰属者が委託者の相続人で、軽減措置の適用がある場合には、不動産取得税は非課税となります。

信託財産の引継時にかかる税金が軽減されるケース・要件を紹介

信託財産の引継時にかかる税金が軽減されるケース

ここでは、信託財産引継の際に発生する税金が軽減されるケースについて、要件などをより詳しく解説します。

登録免許税が軽減されるケース

登録免許税が軽減されるケースとしては、①元々の所有者に移転する場合と、②委託者の相続人が取得する場合の2つのケースがあります。

ここでは、それぞれのケースについて、軽減の要件や軽減率などを解説します。

ケース① 元々の所有者に移転する場合

次のケースでは、家族信託の終了により不動産の所有権が元々の所有者に移転します。

  • 委託者と受益者が同一
  • 信託期間の終了まで委託者と受益者に変更がない
  • 家族信託の終了により信託財産を委託者が取得する

このケースでは、信託財産として受託者に所有権を移転した不動産の所有権が元々の所有者に戻るだけです。そのため、実質的な所有権の移転はなく、登録免許税は非課税となります。ちなみに、家族信託の開始時に、委託者から受託者に所有権移転登記をする際にも登録免許税は非課税です。

ただし、信託登記の抹消の登録免許税は発生します。

ケース② 委託者の相続人が取得する場合

権利帰属者が委託者の相続人である場合に、登録免許税の軽減措置が適用される場合があることは、先の見出しで説明しました。ここでは、軽減措置が適用される要件をより具体的に解説します。

  • 家族信託の終了により信託財産である不動産が権利帰属者に移転する
  • 権利帰属者が信託開始時の委託者の相続人
  • 信託の開始時から終了まで委託者と受益者が同一

これらの要件を全て満たす場合には、登録免許税の軽減措置が適用され、登録免許税の額が固定資産税の0.4%となります。

父親が委託者かつ受益者、子どもが受託者という家族信託の典型的なケースで、子どもが権利帰属者となり、委託者の地位を承継する場合には、1つ目と2つ目の要件を満たすことは問題がありません。

3つ目の要件についても、受益者連続ではない場合は、基本的に要件は満たすと言えます。

そのため、こうした典型的なケースでは、軽減措置の適用を受けることができます。

不動産所得税が軽減される2つの要件

権利帰属者が委託者の相続人である場合に、不動産所得税の軽減措置が非課税となる場合があることは、先の見出しで説明しました。ここでは、不動産所得税が非課税となる要件をより具体的に解説します。

不動産所得税の非課税については、地方税法73条の7に規定されており、その要件を要約すると次の2つの要件に分けられます。

①信託中に委託者の変更がない・委託者兼受益者を継続
②委託者の相続人が財産を得る

要件① 信託中に委託者の変更がない・委託者兼受益者を継続

この要件を満たすためには、信託開始から清算の終了まで委託者=受益者の状況を継続することが必要です。

家族信託の終了事由が発生しても、清算決了までは信託契約は継続します。そのため、委託者が父で、受託者が子である場合、父が死亡すると、受益者の地位は帰属権利者に承継され、委託者の地位は相続人に承継されます。

この際に、子の1人が帰属権利者である場合に、委託者の地位が複数の相続人に承継されると、清算終了までの間に委託者=受益者の状態が失われたと解釈する余地が生まれてしまいます。そのため、家族信託の開始時には、信託契約の内容で、委託者の地位は相続によって権利帰属者のみが取得することを明確にして、解釈の余地をなくしておくべきです。

そうすれば、委託者の地位が複数の相続人に承継されることはなく、委託者=受益者の要件を満たすことができます。

要件② 委託者の相続人が財産を得る

この要件を満たすためには、信託開始時の委託者の相続人が権利帰属者となる必要があります。

家族信託では、権利帰属者として孫などの相続人でない者を指定することもありますが、この場合には、②の要件を満たさず、不動産所得税が課税されます。

なお、この扱いは遺贈の場合も同様です。つまり、相続人に対する遺贈については、不動産取得税は非課税となりますが、それ以外の者に対する遺贈には不動産取得税が課されます。

まとめ:信託について不安がある場合は専門家に依頼しよう

まとめ:信託について不安がある場合は専門家に依頼しよう

家族信託終了時の信託財産引継は税金などのルールが複雑です。家族信託の開始時から修了時までを見据えて家族信託の内容を組み立てなければ、余計な税金が発生してしまう可能性もあります。

税金面など、複雑な家族信託について的確な内容とするためには専門家に相談するのがおすすめです。ファミトラでは、圧倒的な低価格で家族信託の組成のコンサルティングを提供しています。税理士などの専門家とも提携しているので、税金についての疑問も相談できます。

家族信託について不安な点がある場合には、ファミトラまで一度お問い合わせください。

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信託財産引継に関するよくあるご質問

信託財産引継は登記が必要ですか?

信託財産に不動産が含まれる場合には、信託財産の引継ぎで不動産の所有権移転登記手続きが必要です。所有権移転登記については、家族信託を組成した際のコンサルタントに詳細を事前に確認してみてください。

信託財産の引継ぎにはどのぐらい費用がかかりますか?

信託財産の引継ぎによる所有権移転登記や信託登記の抹消には登録免許税が発生します。登記の移転による権利帰属者が委託者の相続人である場合は、登録免許税の軽減措置があり、名義変更のための登録免許税は不動産の固定資産評価額の0.4%に軽減される場合があります。また、不動産取得税も同様に、権利帰属者が委託者の相続人である場合には軽減措置があり非課税となる場合があります。不動産取得税は固定資産評価額の3-4%となっています。


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この記事を書いた人

小牟田尚子 小牟田尚子 家族信託コーディネーター®

化粧品メーカーにて代理店営業、CS、チーフを担当。
教育福祉系ベンチャーにて社長室広報、マネージャーとして障害者就労移行支援事業、発達障がい児の学習塾の開発、教育福祉の関係機関連携に従事。
その後、独立し、5年間美容サロン経営に従事、埼玉県にて3店舗を展開。
7年間母親と二人で重度認知症の祖母を自宅介護した経験と、障害者福祉、発達障がい児の教育事業の経験から、 様々な制度の比較をお手伝いし、ご家族の安心な老後を支える家族信託コーディネーターとして邁進。

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