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資産承継信託と言われてどのような制度が思い浮かびますか。
そもそも言葉自体を初めて聞いた方もいるでしょう。また、大体はわかるけれど遺言や相続とどのように違うのか、よくわからないという方も多いと思います。
ここでは、資産承継信託の概要、種類などの基本的事項に加え、メリットやデメリット、他の資産承継制度との違いを詳しく解説します。
資産承継信託の解説に入る前に、まずは資産承継の基本を押さえておきましょう。
資産承継とは、祖父母や両親などの先代から受け継いだ資産を含む自身の保有する資産を、子どもや孫といった次世代へ引き継ぐことです。基本的には、贈与と相続によって行います。
資産承継を行う際に求められる主な対策は以下の3点です。
不測の事態が起こったときに家族が対応に困らないように、元気なうちから対策を準備しておくべきでしょう。
資産承継信託とは、主に次世代への資産の承継に利用される信託のことです。
そもそも信託とは、委託者が自らの資産(信託財産)の管理処分を信頼できる受託者に託し、信託財産から生じる利益を受益者が享受する制度です。
資産承継信託には、家族信託を活用して行う資産承継方法や、信託銀行が提供する商品(商事信託)を利用した資産承継方法があります。
資産承継信託を上手く活用できれば、いつ、誰に、どのような資産を、どの程度承継させるかを自分の意思で決められます。資産承継に向けた有効な対策になるといえるでしょう。
資産承継信託には様々な種類があります。主な種類について紹介します。
遺言代用信託は、遺言の代わりに信託を用いて資産を承継させる方法です。
遺言では、死亡後に遺言の内容に沿って資産を承継します。遺言代用信託では、信託契約で自らの存命中は自身を受益者とします。自身の死亡後は、資産を承継させたい家族や親族を第二受益者とすることで、遺言と同じような死亡後の資産の承継を実現します。
相続の場合と異なり、死亡後の預金口座の凍結の影響を受けることなく、受益者への円滑な資産承継が可能です。
事業承継信託は、事業主が自身の会社の株式を信託を用いて後継者に承継させる方法です。自身が存命中は従前通り会社の経営を続けられます。自身の死亡後は、相続の場合に求められる遺産分割協議を行わなくとも後継者へ経営権を含む株式を承継できます。
事業承継信託のスキームは、サービスを提供する信託会社によって様々ですので、自身に合ったスキームの選択が重要です。
後継ぎ遺贈型の受益者連続信託は、資産を受け継ぐ後継者をいくつかの世代にわたって指定する信託です。
例えば、自身の資産の承継について、死亡後は配偶者に承継させ、配偶者の死亡後に子どもに承継させるといった、世代をまたぐ承継方法の設定が可能です。
遺言では、遺産の取得者までしか指定できず、遺産を取得した人が死亡した後の承継については指定できません。しかし、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託では、次の次の世代についての承継先の指定までできるのです。
生命保険信託は、自身の生命保険金の受取人を信託銀行などに設定した上で、信託銀行などを受託者とする信託契約により、事前に生命保険金の支払方法を決める金融サービスです。
例えば、未成年の子どもに承継させたい場合に、一括で取得させるのではなく、子どもの面倒をみてくれる人に養育費用として毎月一定額を支給するといったニーズに応じた柔軟な設定が可能です。
暦年贈与信託は、暦年贈与の非課税枠(年間110万円)の範囲での毎年の贈与による次世代への資産承継を信託銀行などがサポートする金融サービスです。具体的には、毎年の非課税枠の範囲での贈与契約書作成のサポートや、事前に預けた資金からの贈与金の振込代行などを行ってくれます。
暦年贈与の非課税枠を利用して資産承継をしたいものの、贈与契約書の作成などの点で税務署からの否認が心配な人に向いているサービスです。
結婚・子育て資金支援信託は、信託銀行などが提供する、子どもや孫に対する結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を利用した資産承継のための金融サービスです。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度では、子どもや孫に対する結婚や子育ての費用について、1,000万円まで(結婚費用は300万円まで)贈与税が非課税となります。
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資産承継信託は他の手段より優れているのでしょうか。ここでは利用するメリットを解説します。
事前に資産承継信託の手続きをしておけば、認知症対策になります。
将来、認知症になり、銀行が本人による取引が難しいと判断した場合、預金口座は凍結され本人であっても取引ができなくなります。
信託をすれば、対象となる資産は基本的に本人の資産とは別に管理されます。そのため、認知症になる前に手続きをしておけば、突然預金を引き出せなくなる事態を回避できるのです。
資産承継信託では、いつ、誰に、どのような資産を、どの程度承継させるかを自己の意思で決められます。
相続では死亡時に法定相続分に沿って資産を分配するため、資産の承継内容に自らの意思を反映できません。
また遺言は、資産の承継先や割合を決められますが、効力の発生は死亡時と決まっています。そのため、資産承継信託のように承継時期に自らの意思を反映させられません。
信託では、契約内容を整備すれば、タイミングも含めて承継内容を自らの意思で決定できます。
資産承継信託の大きなメリットに、二次相続以降の承継先も委託者が決定できる点があります。
遺言や贈与では、資産の一次的な承継先は決定できますが、承継後は承継者の意思に基づいて資産の利用、活用または処分が行われます。承継者の次の承継者の指定に対し元の権利者の意思を反映できません。
信託では、例えば受益者を本人、第二受益者を配偶者、第三受益者を子どもと設定すれば、配偶者の相続(二次相続)後も、委託者の当初の指定に沿って資産を承継させられます。
二次相続以降の承継先が決定可能な点は、他の制度にはない大きなメリットといえるでしょう。
契約内容を整えれば、生前に資産の承継内容を確定できます。
遺言でも、生前に資産承継の内容を決められますが、相続人全員が合意すれば遺言内容とは異なる遺産分割も可能であり、遺言者の意思を確実には反映できません。
また、資産の承継者にとっても、遺言では作成後の撤回や書換えで承継内容が変更される可能性があります。
信託では、内容の変更や解約の権利を契約で制限すれば、契約当事者1人の意思による内容変更は許されず、生前の遺産分割内容の確定が実現できます。
利用するにあたって多くの方が気になるのは資産承継信託の問題点でしょう。以下ではデメリットと注意点を具体的に解説します。
信託の対象とできる資産には、法律上または実務上の制限があります。
信託が難しい主な資産は以下の通りです。
公的年金受給権を始めとした一身専属的な権利は、信託の対象資産にできません。
上場株式は、法律上は対象にできます。しかし、株主名簿の名義書換などの手続きは証券会社を通して実施しなければならず、証券会社での信託への対応が進んでいないため、実務上対象に含められません。
農地は法律上、農業委員会の許可が求められており許可の取得が難しいため、事実上対象にできません。
預貯金には一般的に譲渡禁止特約が付いているため、そのままでは対象にできません。しかし、払い戻して現金にしたり、信託口口座に振り込んだりすれば、実質的には対象資産にできます。
信託は課税関係が複雑になりがちです。
相続や遺言では、基本的に、本人の死亡による相続財産や遺産の取得時に取得者へ相続税が課税されます。
しかし、信託では課税機会だけ見ても、設定時、期間中、終了時の3回あり、課税される税金の種類も、贈与税、相続税、不動産取得税など様々な種類があります。
また、課税対象者は原則として受益者ですが、みなし受益者課税などで受託者に課税される事態もありうるでしょう。
課税関係が複雑になり、将来課税される税金の金額とタイミングの正確な把握が難しい点は注意すべきデメリットです。
信託自体に節税効果はありません。
信託で実現できるのは、資産の利活用や処分の付託と資産の承継です。そのため、次世代への資産承継のスキームとして信託を使っても、各種税金の節税にはなりません。
なお、信託を使った場合、当初の設計が甘いと予期せぬ点でむしろ課税される可能性がありますので注意しましょう。例えば、みなし受益者課税や、不動産所得における損益通算の禁止などで思わぬ課税が生じないように準備する必要があります。
信託内容が遺留分権利者の持つ遺留分を侵害する場合、遺留分が優先されます。
遺留分とは、遺留分権利者の生活保障などの観点から、遺産に対して最低限の取り分を保障する法律上の権利です。遺留分権利者は、配偶者、子ども、両親、祖父母(兄弟以外の法定相続人)です。
遺留分を侵害した場合、遺留分権利者から侵害額相当の金銭の支払いを求められ、円滑な資産承継に支障が出る可能性もあります。遺留分を侵害しないように事前設計の段階で十分に把握すべきでしょう。
なお、遺留分は遺言に対しても優先されるため、信託固有のデメリットではありません。
家族信託(民事信託)には、後見的財産管理機能と資産承継機能の2つの機能があります。
後見的財産管理機能とは、委託者の判断能力が低下したときに、受託者が代わりに資産の管理処分を行い、本人の生活や資産を守る機能です。
資産承継機能とは、本人の死亡後に資産を次世代へ円滑に承継させる機能であり、家族信託における資産承継信託としての側面の表れです。
家族信託が資産承継機能を確実に果たすには、信託契約の条項を適切に設定する必要があります。
契約条項の設定には専門知識と実務経験が求められますので、専門家に依頼すべきでしょう。家族信託の専門家であるファミトラでは、相談者の希望や課題をもとに、信託契約締結手続きの総合的なサポートを行っているため、適切な信託条項の設定が実現できます。
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資産承継に家族信託を利用するメリットを商事信託の場合と比較して解説します。
信託銀行などに受託者を依頼する商事信託と比べて、ランニングコストを抑えられます。
商事信託では、基本的に信託銀行に対する信託報酬や各種の利用手数料が必要です。
家族信託では、家族や親族が資産の利用や活用、処分を行うため、継続的な費用が不要になるか、あるいは低額に抑えられます。
家族信託はオーダーメイドで設計できるため、契約内容を柔軟に決められます。
商事信託では、信託銀行などが提供する既存の金融商品を利用するため、契約内容に自らの意向を十分に反映できない可能性があります。
自らの意思を細かく反映できる点は家族信託の大きなメリットといえるでしょう。
家族信託は商事信託と比べ、信託の対象にできる資産の範囲が広いです。
商事信託では、対象にできる資産を金銭のみに限定している場合も少なくありません。家族信託は、金銭に加え不動産や自社の株式も対象にできるため、商事信託と比べて活用できるケースが多いでしょう。
信託を使って次世代に資産を承継させる場合、遺言と同じ機能を果たします。
他方で、遺言との主な相違点が2つあります。委託者の意向反映の確実性と二次相続以降の承継先を指定可能な点です。
遺言では、相続人全員が合意をすれば遺言内容とは異なる内容での遺産分割も可能ですが、信託では条項を整えれば契約内容に反する承継はできません。
また、信託では遺言と異なり、委託者が二次相続意向の承継先を決定可能です。
なお、信託では対象資産を個別に指定するので、対象に含まれない資産については、遺言で承継先を指定する必要があります。
家族信託を活用した資産承継信託でよくある疑問に対して回答します。
かかります。
前述した通り、信託自体に節税効果はありません。そのため、受益者が死亡し、信託財産の所有権あるいは受益権を承継した場合は相続税が発生します。
受益者死亡時の資産の承継には2つのパターンがあります。
受益者が死亡し信託契約が終了した結果、帰属権利者が資産の所有権自体を取得する場合と、受益者の死亡により契約で定められた第二受益者が受益権を取得する場合です。
いずれの場合でも、承継者に相続税が課税されます。
資産承継信託が優先されます。
先に資産承継信託を行った場合、信託財産となった資産の所有権が受託者に移転することで、委託者には処分権がなくなります。後に遺言書で承継者を指定したとしても効力は生じません。
先に遺言で資産の取得者を指定した場合でも、その資産を信託財産に含めると、先行する遺言は撤回されたとみなされます。
先に遺言を作成しても、資産承継信託を行っても、資産承継信託が優先されます。
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本記事では、資産承継信託について説明しました。
資産承継信託を使えば、遺言と異なり、委託者の意思を次世代だけでなく次の世代以降の承継先の決定にも反映できます。また、生前に決定した承継内容を確定させることも可能です。
後悔しない資産承継の実現のために、対象となる資産の制限や課税関係の複雑化などのデメリットを十分に理解した上で、資産承継信託の利用を考えてみてはいかがでしょうか。
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化粧品メーカーにて代理店営業、CS、チーフを担当。
教育福祉系ベンチャーにて社長室広報、マネージャーとして障害者就労移行支援事業、発達障がい児の学習塾の開発、教育福祉の関係機関連携に従事。
その後、独立し、5年間美容サロン経営に従事、埼玉県にて3店舗を展開。
7年間母親と二人で重度認知症の祖母を自宅介護した経験と、障害者福祉、発達障がい児の教育事業の経験から、 様々な制度の比較をお手伝いし、ご家族の安心な老後を支える家族信託コーディネーターとして邁進。
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