成年後見制度を利用しない財産管理対策とは|どんな選択肢がある?

成年後見制度 利用しない
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成年後見制度は判断能力が十分でなくなった方に代わり、成年後見人が財産管理や契約を行います。
「成年後見制度を選択すると途中でやめるのは難しい」と聞いて、お悩みの方もいるでしょう。

本記事では、成年後見制度を利用するメリット・デメリット、利用しない場合の財産管理対策の選択肢を解説します。

「成年後見制度を利用すべきかどうか」と迷っている方や、「利用しない場合の代替策である家族信託制度とはどういうものなのか」と気になっている方はぜひ参考にしてください。

目次

成年後見制度の利用がもたらすメリット

契約

成年後見制度を利用することで、主に3つのメリットがあります。

  • 財産管理を成年後見人に任せられる
  • 親族による財産の使い込みが防げる
  • 不当な契約を取り消すことができる

以下で順に解説します。

財産管理を成年後見人に任せられる

認知症などにより自身の判断能力が不十分になると、今まで築いてきた財産の管理ができなくなります。
成年後見制度を利用することで、財産管理や契約などの法的手続きを成年後見人に任せることが可能です。

親族による財産の使い込みが防げる

親族による財産の使い込みがあった、というニュースを目にすることがあります。

成年後見人には、親族だけでなく弁護士や司法書士などの法律の専門家が選任されることが比較的多いです。そのため、親族による財産の使い込みへの大きな抑止力になるといえるでしょう。

親族が成年後見人に選任された場合でも、財産の使い込みがあれば家庭裁判所でわかります。
なぜなら、成年後見人は財産管理と身上保護を行った結果を後見事務報告として家庭裁判所に毎年報告する義務が発生するためです。

不当な契約を取り消すことができる

認知症などで判断能力が不十分な高齢者を狙い、不当な契約を結ぼうとする悪質な業者が存在します。
また、本人がうっかり複数の不要な契約を締結してしまう可能性もあります。

成年後見制度を利用していれば、成年後見人が本人の代理人として契約を取り消すことが可能です。
成年後見制度の利用は、ひいては詐欺被害防止にも繋がるといえます。

ただし、成年後見制度のなかでも任意後見制度では、任意後見人に取消権は認められていないので注意が必要です。

成年後見制度の利用で生じるデメリットや気を付けること

ダメ

成年後見制度の利用によって生じる、デメリットや注意点は下記の通りです。

  • 積極的な資産運用ができなくなる
  • 生前贈与ができなくなる
  • ランニングコストが発生する
  • 希望した人が成年後見人に選ばれないこともある
  • 制度の利用を途中でやめるのは難しい

以下で5つの注意点について、詳細に解説します。

積極的な資産運用ができなくなる

成年後見人には本人の利益を第一にして本人の財産を使う義務があります。そのため、成年後見制度を利用すると、積極的な資産運用はできなくなります。

本人に十分な判断能力がない以上は、資産管理を行う成年後見人が積極的な資産運用を考えても本人が望んでいるかは確認できません。

成年後見人は本人の財産管理を任されているものの、本人に不利益が発生する可能性もあるため積極的な資産運用はできなくなっています。

生前贈与ができなくなる

認知症を発症した場合に、成年後見制度を利用するケースがあります。

成年後見制度を利用する場合には、生前贈与ができません。
成年後見制度は、本人の判断能力が十分でない人の有する財産を保護する制度であるためです。

生前贈与とは、被相続人の存命中に贈与を行うことです。

財産を引き継ぐには、大別して相続と生前贈与の2つがあります。
例えば孫に財産を残したい場合には、遺言書で孫への相続を記載する以外にも生前贈与という選択肢があります。

法律で決められた相続人以外には、生前贈与の手法を用いることで自分で築いた財産を引き継ぐことが可能です。

ただし、生前贈与を含む贈与は法律行為です。
贈与は贈与を行う側と贈与を受ける側の双方による合意により効力が発生します。

成年後見制度を利用している人は、認知症などを発症して判断能力が不十分なため、生前贈与は無効と判断される可能性が高いでしょう。

本人の認知症が回復し、判断能力が十分なレベルまで回復し意思能力があると判断されれば、生前贈与が可能になる可能性が出てきます。

ランニングコストが発生する

成年後見制度の金銭的なデメリットとして、弁護士などの専門家が成年後見人に選任された場合に、一定のランニングコストが発生することが挙げられます。
家族が成年後見人に選任されれば、無報酬のこともあるでしょうが、専門家に対しては報酬を支払わなくてはなりません。

成年後見制度のランニングコストの目安として、裁判所が目安として示している基本報酬は次の通りです。

  • 被支援者の管理財産1,000万円以下:報酬(月額)2万円
  • 被支援者の管理財産1,000万円を超え5,000万円以下:報酬(月額)3万円から4万円
  • 被支援者の管理財産5,000万円超:報酬(月額)5万円から6万円

本人の判断能力が十分なうちに後見人を選任する任意後見制度のランニングコストは、弁護士などの専門家を任意後見人に選ぶと、月に約1万円から3万円が相場といわれています。

参考資料:成年後見人等の報酬額のめやす:東京家庭裁判所 
参考記事:任意後見人の報酬額の相場:朝日新聞社相続会議

希望した人が成年後見人に選ばれないことも

家族が成年後見人を希望しても、家庭裁判所が成年後見人にふさわしい人を財産管理や身上保護の観点から判断します。
家庭裁判所の判断によるため、親族が選ばれるとは限りません。

下記に示す通り、家族以外では専門家が選ばれるケースが多くなっています。

  • 親族(配偶者、親、子、兄弟姉妹、その他親族):約3割
  • 専門家(司法書士・弁護士・社会福祉士など):約7割

参考資料:成年後見制度の現状P8:専門家の割合

制度の利用を途中でやめるのは難しい

成年後見制度の利用を開始することは、家庭裁判所が成年後見人を選ぶということです。そのため、いったん成年後見人に選ばれると基本的に成年後見人の変更や成年後見人を辞めさせることもできません。

成年後見制度を利用すると、成年後見人は被後見人が亡くなるまで職務を続けます。
被後見人が亡くなった時点で、後見事務が終了します。

後見事務を途中でやめることは、よほどの事情がない限り難しいでしょう。

成年後見制度を利用しない財産管理・相続対策の選択肢①日常生活自立支援事業

手をつなぐ

成年後見制度を利用しない財産管理・相続対策の選択肢の1つめとして、日常生活自立支援事業が挙げられます。

以下でメリット・デメリットを詳しく解説します。

日常生活自立支援事業を利用するメリット

日常生活自立支援事業を利用するメリットは以下の通りです。

  • 社会福祉協議会が運営するため安心できる
  • 生活保護世帯には公費負担がある
  • 市区町村と社会福祉協議会の間での意思疎通がある

日常生活自立支援事業の実施主体は、都道府県・指定都市社会福祉協議会で、窓口業務などは各市区町村の社会福祉協議会が行っています。
社会福祉法に基づき、社会福祉協議会が事業運営をしています。

各市区町村に設置された、社会福祉協議会に在籍する専門員や生活支援員が事業を支援している点は、事業を利用する上で安心です。

日常生活自立支援事業にかかる利用料については、実施主体が定める利用料を利用者が負担します。
厚生労働省によると、生活保護受給世帯の利用料については無料です。

生活保護受給世帯の方にとって、公費負担により無料で各種サービスを受けることができる点は大きなメリットといえます。

社会福祉協議会は行政組織ではないものの、公益的な福祉事業の公共サービスを実施しています。
市区町村が社会福祉協議会に、社会福祉行政サービスを委託しているところも珍しくありません。

中には市区町村職員が社会福祉協議会事務局長などを兼任するところもあります。市区町村と社会福祉協議会との間では意思の疎通が図られているため、日常生活自立支援事業の利用者にとってはサービスを安心して利用できる点がメリットです。

日常生活自立支援事業を利用するデメリット

日常生活自立支援事業を利用するデメリットは以下の通りです。

  • 日常生活自立支援事業は福祉サービスの利用援助や日常的な金銭などの管理に限定される
  • 認知症などでも契約の意味や内容を理解できる判断能力が必要となる
  • 日常生活自立支援事業の利用開始までの期間が長い

日常生活自立支援事業の内容は、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭などの管理にとどまります。

日常生活自立支援事業のサービス内容の多くは、成年後見人業務の範囲内のもので財産管理や身上保護などの契約上の法律行為にまで及びません。

認知症などでも、契約の意味や内容を理解できる判断能力が必要です。
多少の判断能力の低下は問題ないものの、契約能力については専門委員が契約締結審査会で審査します。

契約能力が低下した場合には契約を終了し、場合によっては成年後見制度の利用を検討することも必要です。

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成年後見制度を利用しない財産管理・相続対策の選択肢②財産管理等委託契約 

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成年後見制度を利用しない財産管理・相続対策の選択肢の2つめとして財産管理等委託契約があります。
財産管理等委託契約とは、委任者の財産管理や手続き及び事務処理を受任者に委任する契約です。

以下でメリット・デメリットを詳しく解説します。

財産管理等委託契約を利用するメリット

財産管理等委託契約を利用するメリットは以下の通りです。

  • 成年後見制度に比べ自由度が高い
  • 本人の判断能力が低下する前に財産管理の内容を決めることができる
  • 家庭裁判所での選任手続きは不要である

財産管理等委託契約は、成年後見制度に比べ自由度が高い契約である点がメリットといえます。
契約当事者間の合意により契約ができて、委任者が信頼のおける人を受任者として選任可能なためです。

財産管理等委託契約は成年後見制度とは異なり、本人の判断能力が低下する前に契約できる点も大きなメリットといえます。
本人の意志を反映した、財産管理の内容を決めることができます。

財産管理等委託契約は、家庭裁判所での成年後見人などの選任手続きが不要である点もメリットです。
家庭裁判所での手続きには時間がかかりますが、財産管理等委託契約では契約当事者間で比較的スムーズに財産管理の委任契約を締結することができます。

財産管理等委託契約を利用するデメリット

財産管理等委託契約を利用するデメリットは以下の通りです。

  • 財産管理委任契約には取消権がない
  • 社会的な信用度が低い
  • 契約の受任者をチェックすることは難しい

財産管理委任契約の受託者には、取消権がありません。
成年後見制度に認められている取消権がない点はデメリットです。

財産管理等委託契約は、一般的に社会的な信用が低いといえます。
成年後見制度のように家庭裁判所での手続きがないため、公的な書類は作成されません。
また、契約内容も通常は登記されないことから、社会的な信用が低い点はデメリットです。

財産管理等委託契約では、契約の受任者をチェックすることが難しい点もデメリットといえます。
成年後見制度における任意後見監督人のように公的な監督者がいないためです。

成年後見制度を利用しない財産管理・相続対策の選択肢③家族信託

お年寄り

成年後見制度を利用しない財産管理・相続対策の選択肢の3つめに家族信託があります。
家族信託とは、家族による財産管理の1つの手法をいいます。

そもそも信託とは、委託者が自ら信頼のおける受託者に自分の所有する財産を託して、一定の目的を決めて財産の管理・運用・処分を行ってもらう仕組みのことです。

家族信託では、委託者・受託者・受益者が登場します。

委託者は、信託財産を預ける人のことで、本人を指します。
受託者は、家族など本人が信頼できる人で信託財産を委託されて、管理・運用する人をいいます。
受益者は、信託財産から生じる利益を得る人のことです。

以下でメリット・デメリットを詳しく解説します。

家族信託を利用するメリット

家族信託を利用するメリットは以下の通りです。

  • 認知症対策としての財産管理管理が可能
  • 成年後見制度よりも柔軟な財産管理が可能
  • 贈与税や不動産取得税などの税金がかからない

家族信託では、本人が認知症などになった場合でも財産管理ができる点はメリットといえます。
認知症対策として、家族信託による信託専用口座を開設しておくことをおすすめします。

金融機関は、本人の判断能力が不十分になった事実を把握すると口座を凍結することもあります。
家族信託を利用すれば、認知症を発症しても口座が凍結されません。
受益者は、信託口口座から必要な生活にかかる費用を引き出すことができます。

家族信託は、成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができる点もメリットです。

成年後見制度では、本人の財産保護の観点から必要最低限の利用にとどまります。
家族信託の場合は、信託契約で定めた契約の範囲内であれば柔軟な財産管理対策を取ることが可能です。

大切な財産を子どもに引き継ぐ場合は、家族信託の他に生前贈与も1つの手段です。ただし、生前贈与を行うことで贈与税や不動産であれば不動産取得税などがかかります。

家族信託なら、委託者である本人が生存している間に受託者である家族などに信託財産を預けるため、上記の税金がかからない点は大きなメリットといえます。

本人の死亡後には信託が終了するため、財産の相続時に相続財産によっては、相続税が発生する可能性のあることには注意が必要です。

家族信託を利用するデメリット

家族信託を利用するデメリットは以下の通りです。

  • 身上保護ができない
  • 家族信託受託者の成り手がいないこともある
  • 親族間の不公平が生まれる恐れもある

家族信託における委託者は身上保護ができません。
家族信託は財産の管理の制度のため、高齢の親が認知症で施設に入る際に親に代わって施設と契約を締結することは不可能です。

中には、親族の誰もが家族信託の受託者になろうとしないケースも想定されます。
その場合家族信託自体ができません。
受託者の手間や責任が大きいため、受託者の成り手がいないこともあり得ます。

また、家族信託では受託者の権限が大きいことから、親族間で不公平感が発生する可能性があります。
受託者が信託を受けた財産に対して権限をもつことで、他の親族からは財産を勝手に使っていないかと疑念を持たれる可能性も否定できません。

家族信託契約を締結する際には、親族間の話合いが重要です。

成年後見制度と他の制度の併用が望ましいケースもある

女性

以下のように、成年後見制度の利用と他の制度を併用した方が望ましいケースもあります。

  • 身上保護が必要なケース
  • 信託財産にできない財産があるケース

身上保護が必要なケースには、成年後見制度と家族信託の併用がおすすめです。家族信託は財産管理を目的としているため、本人の判断能力が不十分なことによる不必要な契約を取り消すことはできません。
成年後見人であれば、契約の取り消しが可能です。

また、財産の中には農地や賃貸人が譲渡を承諾しない借地権などもあります。
上記の財産は、家族信託で信託できない財産です。

本人の判断能力が低下した場合には、信託財産にできていない財産について家族信託契約の受託者は当該財産の管理や処分ができません。信託財産にできない財産があるケースは、成年後見制度と家族信託の併用がおすすめといえるでしょう。

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成年後見制度に関するよくある質問

よくある質問

以下で成年後見制度に関するよくある質問について答えていきます。 

成年後見人に関するトラブル事例にはどのようなものがありますか?

施設に入居している親と面会できなくなった、というトラブル事例があります。

別の兄弟が相談なく、成年後見人の選任を進めた場合には施設入居中の親との面会をできなくするという悪質な事例になることもあり得ます。

成年後見人をつけないとどうなりますか?

成年後見制度を利用しないと本人の財産が損害を受ける可能性があります。

判断能力が不十分なために、不要な契約を締結したり何度も同じ物を買ってしまった場合に、契約を取り消すことができないからです。

親と相続対策・家族信託のことを伝える6つのポイント

親への伝え方を間違ってしまった事例や、親への伝え方を間違ってしまったご家族のその後などをリアルにご紹介。

まとめ:ご自身の事情に合った財産管理・相続対策の選択を

説明

本記事では、財産管理対策を中心に解説するとともに、成年後見制度を利用しない財産管理・相続対策の3つの選択肢もご紹介しました。
さらに、成年後見制度と家族信託の併用が望ましい2つのケースについても解説しました。

財産の管理や相続対策は、本人の財産規模により様々です。
専門家の意見を取り入れた上で、家族信託を利用した財産管理対策について検討することが良い選択に繋がります。

ファミトラでは、家族信託コーディネーターが専門家と連携してお客さまをサポートいたします。無料で詳しい資料をすぐにお取り寄せ可能ですので、ぜひ1度資料をご請求ください。

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この記事を書いた人

田中総 田中総 家族信託コーディネーター®エキスパート 宅地建物取引士/司法書士

東証一部上場の企業で10年以上に渡り法人営業・財務・経営企画等の様々な業務に従事。司法書士資格を取得する中で家族信託の将来性を感じ、2021年6月ファミトラに入社。お客様からの相談対応や家族信託の組成支援の他、信託監督人として契約後の信託財産管理のサポートを担当。

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