成年後見制度の利用を検討している方の中には、申立て手続きや後見開始後にどのくらいの費用がかかるのか疑問を抱いている人も多いのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、手続きに必要な費用や後見開始後の費用についてまとめてみました。
これから成年後見制度を利用しようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
成年後見制度の利用目的とは?
成年後見制度は、認知症や精神上の障がい等により意思能力が不十分な人の財産や権利を守るための制度であり、2000 年に制定されました。
制度を利用するためには所定の手続きが必要であり、本人の支援者として選ばれた人のことを「成年後見人」や「任意後見人」と呼びます。
両者はいずれも、本人の意思を尊重したうえで心身の状態や生活状況に配慮しながら様々なサポートを行います。
具体的には預貯金や保険、不動産といった財産の管理をはじめ、必要があれば入院手続きや福祉サービスの手続きなどがサポート内容として該当するでしょう。
ただし、すべての行為が代行できるわけではなく、日々の買い物や遺言、結婚や離婚といった意思表示は本人の意思が尊重されるため注意が必要です。
成年後見制度は 2 種類ある
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」といった 2 種類があります。
ここではそれぞれの制度について、詳しく見ていきましょう。
任意後見制度
任意後見制度とは、本人が元気なうちに将来意思能力が不十分になってしまった場合に備えて、自分の意思で後見人を選定しておくことができる制度です(後見契約締結には公正証書が必要になります)。
法定後見制度では、成年後見人として誰にどこまでの事務を任せるのかなどの最終的な決定権が家庭裁判所にあるのに対し、任意後見制度では後見人になってほしい人を自身で決められることに加え、後見事務内容について自由に決められるのも特徴のひとつです。
また任意後見制度では、本人が選んだ任意後見人がきちんと業務を全うしているかをチェックするための「任意後見監督人」が選任されることになり、これが任意後見の効力発生要件でもあります。
法定後見制度
任意後見制度に対し、すでに本人の意思能力が不十分な状態であるときに家庭裁判所に申立てを行い後見人を選任してもらう制度です。
法定後見制度では、家庭裁判所へ申立てをする際に医師の診断書が必要となるほか、裁判所での手続きや後見人へ支払う報酬などの費用が発生します。
また法定後見人には、次の 3 つの種類が存在します。
- 後見:意思決定をほとんどできない人が対象
- 保佐:意思能力が著しく不十分な人が対象
- 補助:意思能力が不十分な人が対象
まず「後見」は、認知症や精神上の障がいなどによって、意思能力を欠く常況にある人が該当します。
具体的には、日常の買い物や身の回りのこと、重要な取引行為等も自分一人ではできない状態の人が該当するでしょう。
「保佐」は認知症や精神上の障がいなどによって、意思能力が著しく不十分な人が該当します。
後見と異なり、身の回りのことや日常の買い物はできても重要な取引行為(不動産の売買など)は一人で行えない状態にある人が対象です。
「補助」は認知症や精神上の障がいなどによって意思能力が不十分な人が該当します。
大抵のことは自身でできるものの、重要な取引行為を一人でするには不安が残るといったケースが当てはまるでしょう。
任意後見を契約するための費用はいくら?
任意後見制度を利用するうえで、料金が発生するタイミングは以下の 2 つです。
- 任意後見契約の締結時
- 任意後見契約の開始時
任意後見契約は、公正証書によって締結しなければならないと法律で決められています。
任意後見契約に関する法律 第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
その際、公正証書を作成するにあたって次に挙げるような所定の費用が生じます。
- 公正役場の手数料:11,000 円
- 証書の枚数による手数料の加算:1 枚につき 250 円
- 法務局へ支払う手数料:2,600 円
- 登記嘱託手数料:1,400 円
- 書留郵便料:540 円
- 正本謄本の作成手数料:1 枚につき 250 円
また上記に加えて、任意後見契約が実際に開始した際は、後見人や後見監督人に支払う手数料も生じるので注意が必要です。
成年後見制度の手続きに係る費用はいくら?
ここでは、成年後見制度の手続きにかかる費用について解説します。
裁判所へ支払う申立て手数料
裁判所に対して申立てを行う際、申立手数料として 800 円、登記手数料として 2,600 円の費用が生じます。
また、手数料については収入印紙で支払う必要があり、収入印紙は郵便局などで購入可能です(コンビニエンスストアでは通常、額面 200 円のもののみ取り扱いがあります)。
なお、保佐申立てや補助申立てで代理権や同意権の付与申立ても同時に行う場合、さらにそれぞれ 800 円分の収入印紙が必要となるので注意しましょう。
※保佐人や補助人の権限などの違いについては、以下の記事をご参照ください。

裁判所との書類のやり取りに必要な送達・送付費用
裁判所に対し審判書をはじめとした書類の送達や送付をする際、3,000 ~ 5,000 円分の切手が必要になります。
後見申立て | 3270円分 (内訳:500円×3,100円×5,84円×10, 63円×4,20円×5,10円×6,5円×2,1円×8) |
保佐・補助申立て | 4210円分 (内訳:500円×4,100円×5,84円×15,63円×4,20円×5,10円×7,5円×4,1円×8) |
また、この切手代は裁判所によって異なることに加え、切手の内訳もそれぞれの裁判所で決まっていることから、前もって管轄の裁判所に対して必要な切手金額を確認しておくようにしましょう。
診断書の発行手数料
申立ての際は医師の診断書を提出する必要があり、診断書を発行するために所定の手数料がかかります。
診断書の発行にかかる手数料は病院によって異なりますが、通常は 5,000 円~ 1 万円ほどのお金が必要です。
また診断書については、家庭裁判所の書式で作成しなければならないため、発行してもらう際はあらかじめその旨を伝えるようにしましょう(念のため、前もって医療機関に確認しておくとスムーズです)。
なお、診断書の発行にかかる診断料も別途発生します。
戸籍抄本・住民票の発行手数料
医師の診断書以外にも、申立てには戸籍抄本や住民票といった公的書類が必要となります。
戸籍抄本は本籍地、住民票は住民登録をしている自治体で発行ができるので、なるべく早めに手元に準備しておくようにしましょう。
特に、転居や転勤などで本籍地が遠方にある場合、書類が届くまでに時間がかかる恐れがあるので注意が必要です。
それぞれの発行手数料は 300 円ほどですが、自治体によって金額が異なることから前もって確認することをおすすめします。また、それぞれの書類を郵送で取得する場合には別途郵送料がかかります。
後見登記されていない旨を証明する書類
後見の申立てには、後見登記されていない旨の書類が必要となり、これらは法務局で取得可能です。
窓口に直接出向いて受け取るほか、郵送でも交付を受けられます(※)。
発行に際して生じる発行手数料として、書面の場合は1通300円、オンラインで請求して書面で受け取る場合も1通300円です。
(※)郵送対応は東京法務局のみ、窓口発行は各法務局と地方法務局の本局のみ(支局、出張所は含まない)となります。
鑑定費用
申立ての際に提出した医師の診断書だけでは本人の意思能力が十分に確認できないと判断された場合、診断書とは別に医師の鑑定が必要となるケースがあります。
裁判所から医師に対して鑑定の依頼がされ、その際は鑑定費として 10 ~ 20 万円ほどのお金が必要です。
また、あくまでも裁判所が必要であると判断した場合にのみ生じる費用であることから、申立ての際に必ずしも用意しておかなければならないお金というわけではありません。
可能性のひとつとして頭の片隅に入れておくと良いでしょう。
司法書士や弁護士の報酬
後見の申し立ては自分で行えるものの、上記のように複雑な手続きが必要なため、弁護士や司法書士といった専門家に委任することもできます。
専門家に申立てを依頼する場合には報酬を支払う必要があり、事務所ごとに金額は異なるものの、大体 10 ~ 30 万円ほどのお金が必要です。
なお、弁護士や司法書士といった専門家に成年後見人・保佐人・補助人の候補者になってもらうことを検討している場合には、申立ての段階から依頼しておくと手続きがスムーズに進むでしょう。
後見開始後にかかる費用はいくら?

後見の申立てが終わり、実際に後見が開始したあとも後見人に支払う費用が発生します。
また成年後見監督人を選任する場合も費用が生じますので、ここではそれぞれについて見ていきましょう。
成年後見人へ毎月支払う基本報酬
成年後見人から「報酬付与の申し立て」がなされると、家庭裁判所が定めている基準を元にさまざまな条件を総合的に加味したうえで報酬金額が決まります。
そのため、成年後見人ひとりの判断で本人の財産から報酬を受け取ることはできません。
成年後見人の報酬は「基本報酬」と「付加報酬」の 2 つから成り立ち、そのうち基本報酬とは財産管理などの日常的な業務に対して支払う費用を指します。
基本報酬は管理する財産額によって異なり、次のように定められています。
- 1,000 万円以下:月額 2 万円
- 1,000 ~ 5,000 万円:月額 3 ~ 4 万円
- 5,000 万円超え:月額 5 ~ 6 万円
また、報酬付与の申立てをしなければ報酬を支払う義務が生じないため、家族の場合には「無償」で行われているケースも多く見受けられます。
特別な行為をした場合に支払う付加報酬
預金や出納など日常業務以外で成年後見人の業務に特別な困難な事情があった場合、基本報酬の 50%の範囲内で付加報酬が生じます。
その他にも、遺産分割や不動産売却といった特別な後見行為が発生した場合、行為の内容に応じて付加報酬が生じるので注意が必要です(報酬例|訴訟:80 ~ 150 万円、遺産分割調整:55 ~ 100 万円、居住用不動産の任意売却:40 ~ 70 万円など)。
成年後見監督人へ毎月払う報酬
後見監督人とはその名の通り、選ばれた後見人がきちんと事務を行っているかどうかを監督するために、家庭裁判所によって選ばれた人のことを指します。
後見監督人になるために特に資格は必要ありませんが、実際に後見監督人として家庭裁判所に選任されるのは弁護士や司法書士といった専門家であることがほとんどです。
後見監督人が選任された場合は報酬を支払わなければならず、報酬額は管理する財産額によって異なります(5,000 万円以下は月額 1 ~ 2 万円、5,000 万円を超える場合は月額 2.5 ~ 3 万円ほど)。
後見人制度の手続きや後見人に支払う報酬が払えない場合は?
ここまで後見人制度にかかる費用について見てきましたが、そもそも費用は誰が支払うのかや、万が一払えない場合にはどうしたらいいのかについて解説します。
そもそも費用は誰が払う?
法定後見の申立てにかかる費用は、原則として申立人が負担することになります。
ただし、特別な事情がある場合には家庭裁判所に申立人以外の関係人に対して、申し立て費用の負担を命ずること(費用負担命令)が可能です。
なお申立てを支援した専門家(弁護士や司法書士など)に支払われる費用は費用負担命令の対象とならないので注意しましょう。
また後見人に支払う報酬は、本人の財産から支払うことになっています。
後見人の費用が払えない場合
後見人に支払う報酬は自身の財産から支払わなければならず、場合によっては報酬負担が苦しいケースもあるでしょう。
そのような時は、助成金制度の利用を検討することをおすすめします。
助成金制度を利用するためには生活保護を受けていることや、非課税世帯、預貯金が一定額以下などの条件があるものの、それらを満たしていれば申請が可能です。
また支給額には上限が設けられていますが、基本報酬がまかなえる程度の金額は支給されるようになっています。
成年後見人の費用は手続きをする前に確認しよう

今回は、成年後見制度を利用する際に生じる費用についてお伝えしました。
成年後見制度を利用する場合申立て・報酬と費用負担が大きくなることから、前もってどの程度の費用がかかるのか知っておくことが大切です。
今回の記事では成年後見制度に関する費用を中心に解説しましたが、意思能力が不十分になってしまった時の財産管理対策として「家族信託」を利用する方法もあります。
家族信託は、本人の意思能力があるうちに家族間で財産管理を委託する旨の契約を締結するため、万が一認知症等で意思能力を欠く状態となってしまっても、本人の意向に沿った柔軟な財産管理が可能です。
また利用に伴って生じる費用についても、長期的に考えたとき、成年後見制度を利用するよりも安く抑えられる可能性があります。
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